分譲マンションにおける火災保険の加入は、専有部分は居住者が火災保険に加入し、共用部分は管理組合が契約者となり火災保険に加入します。
管理組合が契約者となり加入する共用部分の火災保険は「マンション総合保険」と呼ばれます。
各保険会社によってマンション総合保険の名称が異なります。日新火災の場合は「マンションドクター火災保険」というペットネームで販売されています。
マンション総合保険について
補償の範囲
マンション総合保険では、下記のようにマンションの共用部分を一括して保険の対象とします。
建物本体はもちろん、建物外の集会場や駐輪場なども補償の対象となります。集会場にあるコピー機やその他備品等の動産も含みます。専有部分以外は全て共用部分として補償の対象となると考えていただければわかりやすいです。
補償内容
補償内容について例を挙げて説明いたします。ここでは、日新火災のマンションドクター火災保険の場合を説明いたします。
基本補償
❶火災・落雷・破裂・爆発
- 火災
マンション戸室で火災が発生した場合、消火による放水のため、共用部分である廊下やベランダ等が水浸しになり、また、煤で汚れてしまうといったような損害が発生します。そのような共用部分への損害に対して保険金が支払われます。
- 落雷
落雷により、自動火災報知器や屋上アンテナ等が故障したといった損害が補償の対象となります。
❷風災・雹(ひょう)災・雪災
- 風災
台風や竜巻、暴風といった風災による損害を補償します。例えば、台風でベランダの間仕切りが破損した場合、補償の対象となります。
- 雹(ひょう)災
例えば、雹により窓ガラスが割れ、共用部分が損害を受けた場合に補償の対象となります。
❸建物外部からの物体の衝突等
❹給排水設備の事故による水濡れ
給排水設備に生じた事故に伴う漏水等による水濡れによりマンション共用部分に生じた損害を補償します。
❺盗難
❻騒擾・集団行動・労働争議に伴う暴力行為・破壊行為
❼事故時諸費用
オプション
財産に関する補償
❶水災
台風や豪雨等により、床上浸水もしくは地盤面より45cmを超える浸水となり共用部分に損害が発生した場合、または再調達価額の30%以上の損害が発生した場合に補償します。
※再調達価額とは同等のものを新たに建築・購入するのに必要な額のことをいいます。
例えば、集中豪雨によりマンション1階が冠水し、共用部分に損害が発生した場合、補償の対象となります。
近年は地球温暖化や都市化の影響により、突発的な集中豪雨が増加し、水災事故も増えています。ハザードマップの確認はもはや必須です。
❷破損・汚損
不測かつ突発的な事故によりマンション共用部分に生じた損害を補償します。
マンション共用部分のエントランスドアを何者かに壊されたといった事故例が挙げられます。
❸電気的・機械的事故
マンションの共用部分に付属する機械設備・装置(空調設備、電気設備、消火設備、エレベーター等)に生じた電気的・機械的事故による損害を補償します。
❹宅配ロッカー内動産補償特約
賠償責任に関する補償
❶建物管理賠償責任補償特約
マンション共用部分の欠陥等に起因する偶然な事故やマンション共用部分の賃貸または管理およびこれに付随する業務の遂行に起因する偶然な事故により、他人にケガをさせたり、他人のものを壊したりした場合の法律上の損害賠償責任を補償します。
マンション総合保険の中でも非常に重要な補償です。
例えば、共用部分の排水管から水漏れが発生し、区分所有戸室を汚損してしまった場合や、共用廊下の手すりが外れ、通行人がケガをしてしまった場合等、共用部分が原因となり、損害賠償が発生した場合に、保険金をお支払いします。
❷個人賠償責任総合補償特約
上記の建物管理賠償責任補償特約は共用部分の管理等に起因する賠償責任を補償する特約ですが、こちらの特約は、居住者の賠償事故に備える特約です。
日常生活において発生した偶然な事故または居住用個室の所有・使用・管理に起因する偶然な事故によって他人にケガをさせたり、他人の物(他人から借りたものを除く)を壊したりした場合の法律上の損害賠償責任を補償します。
こちらもマンション総合保険の中で、重要な補償です。
自室の洗濯機のホースが外れ下の階に漏水し階下の住人の衣類を汚してしまった、といった専有部分からの水濡れによる階下への賠償リスクに備えることができます。
❸管理組合役員賠償責任・対応費用補償特約
マンション管理組合またはその役員が管理規約等に規定する業務に係る行為に起因して、損害賠償請求を受けたことによって負担する法律上の損害賠償金、弁護士費用、初期解決費用等の損害や情報漏えい対応費用、居住者が管理規約等に違反したことによるトラブル等が発生した際に管理組合が負担する弁護士相談等費用を補償します。
例えば、預金通帳の残高を確認していなかったため、会計担当役員の管理費着服行為に気付かなかったとして、理事長と監事も管理費の弁済を求められたケースや、違法駐車をする住人に再三注意したが解決せず、管理組合は弁護士に法的措置について相談した場合等に、保険金をお支払いします。
マンション総合保険では近年登場した特約で、管理組合の皆様からも反応が多い特約です。
費用に関する補償
❶失火見舞金費用
❷水濡れ原因調査費用
マンション共用部分において水濡れ事故が発生した場合に、どこで水濡れが発生したのか、原因を調査するために必要な費用を補償します。
例えば、床に水が浸み出し続けており、その漏水の原因調査のために行った開口調査の費用を補償します。
マンションでの水濡れ事故は多いので、マンション総合保険の中でも重要な補償です。
マンション総合保険を扱う各保険会社で、自動補償となっていたり、オプションとして選択する保険会社もございます。この水濡れ原因調査費用の補償自体がない保険会社もございますので注意が必要です。
❸残存物取り片付け費用
❹修理付帯費用
近年のマンション総合保険に関する動向
築古のマンションも多くなってきたことから、特に水濡れに関する事故が増加しています。日新火災のマンションドクター火災保険では、マンション管理士がメンテナンス状況を診断し、管理状況が良好ならば保険料を割り引くという新しい取り組みを始めました。
日新火災以外の保険会社のマンション総合保険でも、水濡れ等事故が頻発しているマンションは大幅に保険料を引き上げ、管理状況が良好な事故の少ないマンションは保険料が割引されるといった制度を日新火災に追随して取り入れました。
自動車保険の等級制度を想像していただければ分かりやすいです。自動車保険では、保険を使用した場合、3等級ダウンとなれば3年間は事故ありの割増の保険料が適用されます。
事故が少なく管理状況が良いマンションは保険料を引き下げ、事故が多発しているマンションは保険料を引き上げる傾向は今後も続くと考えています。
マンション総合保険:まとめ
マンション総合保険は、火災だけでなく、近年多発する自然災害やその他様々な事故について幅広く補償します。共用部分の管理等に起因する「賠償責任保険」や、専有部分・居住者に関する「個人賠償責任保険」といった賠償の保険も含まれます。
その為内容が少し複雑で、特に賠償関係の事故が起きた場合には、因果関係の特定や、その責任主体は誰なのか、保険や法律の知識が要求されます。
保険は入口も大事ですが、実際に事故が発生したときに役に立たなければ意味がないですから、事故が起きたときにきちんと対処できるのか?という出口は非常に大切です。
マンション総合保険に関して、お役に立てることがございましたら、お気軽にお声がけください。